
同期の天敵が、私の初恋でした
By 佐藤 由紀
romance · 2026-04-23
恋は夫である晴翔から突然離婚を告げられる。政略結婚であり愛がないことを突きつけられるが、愛人になるという屈辱的な選択肢も提示される。カフェで愛人と鉢合わせし、混乱する中、晴翔は急用で去り、恋はある人物に電話をかける。その後、晴翔に連れ去られ監禁される。
第1章
同期の天敵が、私の初恋でした
「離婚…ですか、晴翔様?」
九条恋は、目の前の夫、時雨晴翔の涼やかな顔を見つめた。表参道のカフェ、午後の光が彼の横顔を優雅に照らしている。しかし、その言葉は、恋の心臓を凍らせるほど冷たかった。結婚してまだ三年、世間からは理想の夫婦と見られている私たち。だが、現実は仮面夫婦、愛などどこにも存在しない。
「そうだ、恋。君もわかっているだろう?これはビジネスだ。時雨グループと九条グループのためだけの」
晴翔の声は、いつもと変わらず穏やかで、感情が読み取れない。彼の瞳の奥には、いつも深い闇が潜んでいる。初めて会った時から、その闇に魅かれたのかもしれない。けれど、今はただ、絶望を感じるだけだ。
私たちは、政略結婚だった。時雨グループと九条グループ、二つの名家を結びつけるための道具。お互いの顔も知らないまま、写真だけで結婚が決まった。結婚式の日、初めて晴翔と顔を合わせた時、まるで氷のような男だと感じた。恋に微笑みかけることはなく、ただ淡々と義務をこなすだけ。私たちの間には、会話もなく、スキンシップもない。同じ屋根の下に住んでいても、まるで別世界にいるようだった。
結婚して三年、私はずっと耐えてきた。時雨家の嫁として、完璧な妻を演じてきた。彼の母親からの嫌味、親戚からのプレッシャー、すべて笑顔で受け止めてきた。いつか、彼の心が少しでも私に向いてくれると信じて。けれど、それは幻想だった。晴翔の心は、永遠に閉ざされたまま。
「でも…」恋は震える声で言った。「離婚すれば、九条グループに大きな損失が出ます。それは…」
「心配ない」晴翔は冷静に答えた。「すべて手配済みだ。九条グループには、十分な補償をする。君の将来も、私が保証しよう」
彼の言葉は、まるで他人事のようだった。恋の気持ちなど、微塵も考えていない。彼は、ただ自分の計画を遂行するだけ。私は、彼の掌の上で踊らされている操り人形なのだろうか。
「それに」晴翔は言葉を続けた。「君には、もう一つの選択肢がある」
恋は、息をのんだ。もう一つの選択肢?一体、何を考えているのだろうか。彼の瞳の奥に、一瞬、狂気のような光が見えた気がした。
「私の…愛人になるか?」晴翔は、冷たい笑みを浮かべた。「離婚はしない。だが、君は私のものになる。一生、私の傍で、私の欲望を満たす存在として生きるんだ」
恋は、言葉を失った。彼の言葉は、恋の心を深くえぐり、絶望の淵に突き落とした。愛人…?そんな屈辱的な選択肢を選ぶくらいなら、死んだ方がましだ。でも、九条グループのためには…
「さあ、恋。どちらを選ぶ?離婚するか、それとも…」晴翔は、恋の目をじっと見つめた。その視線は、まるで獲物を狩る獣のようだった。彼の瞳の奥に、一瞬、狂気のような光が見えた気がした。
その時、カフェのドアが開き、一人の女性が入ってきた。栗色の髪を肩まで伸ばし、美しい顔立ちをしている。その女性は、晴翔の隣に座り、彼の腕に絡みついた。「晴翔様、お待たせしましたわ」
晴翔は、恋を無視して、その女性に微笑みかけた。「ああ、遅かったな、彩乃」
彩乃…?彼女は、晴翔の愛人…?恋は、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。自分が、どれほど愚かだったのか、ようやく理解した。晴翔は、最初から恋を愛していなかった。彼は、ただ、恋を利用していただけなのだ。そして、今、恋は、人生最大の選択を迫られている。
離婚か、愛人か。どちらを選んでも、地獄が待っている。恋は、深く息を吸い込んだ。そして、決意を固めた。「晴翔様…」
恋が口を開こうとした瞬間、晴翔のスマホが鳴り響いた。彼は、画面を見て、一瞬、顔色を変えた。「…まさか」
電話に出た晴翔の表情は、明らかに動揺していた。「一体、何があった?…わかった、すぐに向かう」
電話を切った晴翔は、恋と彩乃に視線を向けた。「急用ができた。二人とも、ここで待っていてくれ」
そう言うと、晴翔は慌ただしくカフェを飛び出していった。残された恋と彩乃。二人の間には、重苦しい沈黙が流れた。彩乃は、恋を挑発するように見つめ、ニヤリと笑った。「あら、奥様。大変ね」
その言葉に、恋は怒りを覚えた。しかし、同時に、冷静さを取り戻した。今、感情的になっても意味がない。恋は、彩乃に微笑みかけた。「そうね。でも、まだ終わってないわ」
恋は、椅子から立ち上がった。「少し、お手洗いに行ってくるわ」
そう言うと、恋はカフェの奥へと歩いていった。そして、誰にも気づかれないように、スマホを取り出し、ある番号に電話をかけた。「…お願いがあるの」
電話の向こうで、低い声が答えた。「…承知しました」
恋は、深呼吸をした。これから、何が起こるのかわからない。でも、もう、晴翔の操り人形にはならない。自分の運命は、自分で切り開く。そう決意した。
カフェに戻ると、彩乃はもういなかった。テーブルには、一枚のメモが残されていた。「…晴翔様が、あなたを連れてこいと」
恋は、メモを握りしめた。晴翔は、一体何を企んでいるのだろうか?そして、恋をどこへ連れて行こうとしているのだろうか?恐怖と不安が、恋の心を締め付けた。だが、同時に、好奇心も湧き上がってきた。晴翔の真の目的を知りたい。そして、彼の仮面を剥がしたい。恋は、覚悟を決めた。晴翔の待つ場所へ、向かおう。
恋は、カフェを飛び出した。表参道の夜の街を、一人で歩き出す。冷たい風が、恋の頬を撫でた。まるで、これから始まる嵐を予感しているかのようだった。彼女はまだ知らない。この先に待ち受けている、過酷な運命を。
その夜、恋は、晴翔に連れられ、誰も知らない場所に監禁された——。