
表参道のカフェで拾われた私の新しい人生
By 佐藤 由紀
romance · 2026-04-23
片桐理沙は、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したことに気づき、破滅エンドを回避するために行動する。しかし、婚約者の宇佐美柊に婚約破棄を申し出ることで、事態は思わぬ方向へ。
第1章
表参道のカフェで拾われた私の新しい人生
「宇佐美さん、婚約を破棄させていただきます。」
シャンデリアが煌めく grand ballroom に、凛とした私の声が響いた。視線の先には、申し訳なさそうな顔をした婚約者の宇佐美柊。そして、彼の腕にしがみつく、儚げな美しさの三条胡桃。
まさか、私がこんな昼ドラみたいな展開に巻き込まれるなんて、数ヶ月前までは想像もしていなかった。私が片桐理沙として目覚めたのは、大学三年生の時。交通事故で意識を失い、次に気がついた時には、自分がプレイしていた乙女ゲーム『Royal Tears』の悪役令嬢、片桐理沙になっていることに気づいたのだ。
片桐家は、日本有数の財閥である宇佐美グループと並ぶ名家。理沙は、そのお嬢様として何不自由なく育った。しかし、性格は最悪。わがままで高慢、気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こす。そして、ゲームのヒロインである三条胡桃を、あらゆる手を使って虐めるのだ。その結果、柊を含む攻略対象キャラクターたちの反感を買い、最後は婚約破棄され、海外に追放されるという悲惨な結末を迎える。
そんな未来は絶対に嫌だ! そう思った私は、理沙として生きることを決意して以来、性格改善に努めてきた。胡桃に意地悪をすることはもちろん、誰に対しても丁寧に接するように心がけ、社交界でも「理沙様は変わられた」と評判になった。
それなのに、なぜこうなってしまったのか。
「理沙、君の気持ちはわかる。だが、胡桃を傷つけることはできないんだ」
柊の声が、私の耳に突き刺さる。胡桃は、泣き出しそうな顔で柊の服を掴んでいる。まるで、私が何か恐ろしいことをしようとしているみたいじゃないか。
「柊様、そんな……私、理沙様に何かしましたでしょうか?」
胡桃のそのセリフに、会場全体がざわめいた。まるで、私が一方的に胡桃をいじめているかのような言い方だ。違う、私は何もしていない。むしろ、彼女に近づかないように、ずっと避けてきたのに。
「胡桃、大丈夫だ。私がついている」
柊は、優しく胡桃を抱き寄せた。その光景が、私の胸を締め付ける。まるで、私がこの場違いな存在であるかのように。
「宇佐美さん、もう一度言います。婚約を破棄させていただきます」
私は、震える声を押し殺して、繰り返した。これは、私の決意表明だ。このままゲームのシナリオ通りに進むつもりはない。自分の手で、運命を切り開いてみせる。
「……理沙、本気なのか?」
柊の顔から、いつもの優しい笑顔が消え、鋭い眼光が私を射抜く。その目に、私は一瞬怯んだが、すぐに覚悟を決めた。
「ええ、本気です。宇佐美さんとは、もう二度と会いたくありません」
そう言い放ち、私は背を向けた。会場のざわめきが、背中に突き刺さる。でも、今は振り返るわけにはいかない。私は、自分の足で、新しい未来へと歩き出さなければならないのだから。
扉に手をかけた瞬間、背後から冷たい声が響いた。
「片桐理沙。婚約破棄を申し出るのは、そちらの権利です。しかし、宇佐美グループとの関係を断ち切るということは、片桐グループにも大きな影響を与えることを忘れないでくださいね」
声の主は、宇佐美グループの会長であり、柊の父、宇佐美宗一郎だった。その言葉の意味を理解した瞬間、私は全身が凍り付くのを感じた。私の婚約破棄は、片桐家をも巻き込む大きな問題へと発展してしまうのだろうか……?