三ヶ月だけの花嫁のはずでした

三ヶ月だけの花嫁のはずでした

By 高橋 真由

romance · 2026-04-23

美羽は上司に結婚の嘘をつき、御曹司の晋に恋人のフリを依頼する。晋はそれを承諾する代わりに、契約結婚を提案。翌日、招待状が届き、六本木のレストランで会うことになるが、そこで晋は突然、美羽にプロポーズをする。

第1章

三ヶ月だけの花嫁のはずでした

「結婚してください!」

居酒屋の喧騒に紛れるように、私は勢いよく頭を下げた。目の前にいるのは、大学時代から憧れていた高嶺の花、志貴晋。まさか彼にプロポーズする日が来るとは、夢にも思わなかった。

舞台は東京、表参道にある小さなデザイン会社。私はそこで働くデザイナー、日向美羽(しらいしりん)。25歳、彼氏なし、趣味は週末のカフェ巡り。ごくごく普通のOLだ。晋さんは、私たちの会社のクライアントである大手IT企業「ネクスト・イノベーション」の御曹司。頭脳明晰、容姿端麗、誰もが認めるエリート。

「日向さん、落ち着いて。一体どうしたんですか?」

晋さんは、驚いた顔で私を見つめている。そりゃそうだろう。数時間前まで、私たちはごく普通のビジネスパートナーだったのだから。

事の発端は、一週間前に遡る。会社の飲み会で、上司に「お前も早くいい人見つけて結婚しろよ」とからかわれた。その時、酔った勢いで「実は、結婚を前提にお付き合いしている人がいるんです」と、とっさに嘘をついてしまったのだ。

「お相手はどんな人だ?」

「えっと…大手IT企業の…」

「へえ、すごいじゃないか!今度、紹介してくれよ」

上司の言葉に、私は青ざめた。嘘がばれたら、会社にいられなくなるかもしれない。そこで、藁にも縋る思いで、晋さんに相談したのだ。

「志貴さん、お願いがあります。私の嘘を、どうか、どうか、助けてください!」

「嘘を助ける、ですか?」

「はい。上司に、結婚を前提に付き合っている人がいると嘘をついてしまいました。もし嘘がばれたら、会社を辞めざるを得なくなります。そこで、志貴さんに、私の恋人のフリをしていただきたいのです」

「恋人のフリ、ですか…」

晋さんは、腕を組み、難しい顔をしている。無理もない。彼にとって、私はただの取引先の担当者。そんな私に、恋人のフリをしてくれなんて、非常識極まりないお願いだ。

「もちろん、タダではありません。志貴さんが望むことなら、何でもします。お金でも、時間でも、私にできることなら…」

必死に訴える私に、晋さんはしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。

「分かりました。協力しましょう」

信じられない言葉に、私は目を丸くした。「本当ですか?」

「ただし、条件があります」

「条件…ですか?」

晋さんは、私の目を真っ直ぐ見つめ、ゆっくりと告げた。

「僕と、契約結婚してください」

契約結婚…?予想外の言葉に、私は言葉を失った。一体、彼は何を考えているのだろうか。

「詳しい話は、また後日。今日は、これで失礼します」

そう言うと、晋さんは立ち上がり、颯爽と居酒屋を後にした。私は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。契約結婚…嘘から始まった恋は、一体どこへ向かうのだろうか。

翌日、会社に出勤すると、上司が満面の笑みで近づいてきた。「どうだ、日向。彼氏を紹介してくれるのか?」

私は覚悟を決めて、答えた。「はい、もちろんです。近いうちに、ご紹介させていただきます」

その夜、私の携帯に、晋さんからメッセージが届いた。「明日の夜、六本木のレストランで会いましょう。契約の詳細について、話があります」

六本木…一体どんな契約が待っているのだろう。そして、私は本当に、彼と契約結婚するのだろうか。胸騒ぎを覚えながら、私は眠りについた。翌朝、出社すると、デスクに見慣れない封筒が置かれていた。差出人は、志貴晋。中を開けると、一枚の紙が入っていた。それは、まるで結婚式の招待状のような、美しいデザインのカードだった。そこには、手書きの文字でこう書かれていた。「明日の夜、お待ちしています。ドレスコードは、桜色の何かを身につけてきてください」

一体、彼は何を企んでいるのだろうか。桜色のドレス…?私は、クローゼットを開け、途方に暮れた。

その時、会社の電話が鳴った。電話に出ると、晋さんの秘書だという女性の声が聞こえた。「日向様、明日の件で志貴より伝言がございます。『明日は、特別なサプライズを用意しています。楽しみにしていてください』とのことです」

サプライズ…?契約結婚の条件の他に、一体どんなサプライズが待っているのだろうか。不安と期待が入り混じり、私の心はざわめき始めた。その夜、私はなかなか寝付けなかった。そして、翌日。六本木に向かうタクシーの中で、私は、あることに気がついた。もしかしたら、これは、単なる契約結婚ではないのかもしれない…

会場に到着し、息を呑んだ。そこは、六本木ヒルズの最上階にある、会員制のレストランだった。煌びやかなシャンデリア、夜景を一望できる大きな窓、そして、中央には、見慣れない男性が立っていた。彼は、私の方を向き、深々と頭を下げた。「日向美羽様、お待ちしておりました。志貴晋様より、特別なお客様だと伺っております」

特別なお客様…?一体、何が始まるのだろうか。私は、緊張しながら、男性に案内されるまま、レストランの中へと足を踏み入れた。そして、奥に進むと、豪華なテーブルが用意されていた。そこには、タキシードを着た晋さんが、優雅にグラスを傾けながら、私を待っていた。

「いらっしゃい、日向さん。桜色の装い、よく似合っていますね」

晋さんは、微笑みながら、私を迎えた。私は、ぎこちなく微笑み返し、彼の向かい側の席に座った。テーブルの上には、豪華な料理が並べられている。しかし、私は、緊張して、なかなか箸をつけることができなかった。

「今日は、ゆっくりと食事を楽しみましょう。そして、契約の詳細について、お話します」

晋さんの言葉に、私は、頷いた。しかし、その時、突然、レストランの照明が消え、会場全体が暗闇に包まれた。そして、次の瞬間、スポットライトが、私たち二人を照らし出した。一体何が起こったのか理解できないでいると、晋さんが立ち上がり、私の前に跪いた。

「日向美羽さん、僕と結婚してください」

晋さんの言葉に、会場全体がどよめいた。そして、次の瞬間、背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。「えええええええ!?」

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