この物語の悪女は、私じゃないはずなのに

この物語の悪女は、私じゃないはずなのに

By 田中 智子

romance · 2026-04-23

侯爵令嬢エレオノーラは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生したことに気づき、破滅エンドを回避しようとする。しかし、婚約者のエドワード殿下に断罪される場面を何度も見る悪夢に悩まされる。状況がゲームの展開と異なり、聖女リリーの態度も不審で、エレオノーラは混乱する。

第1章

この物語の悪女は、私じゃないはずなのに

シャンデリアの光が、嘲笑うかのように私、エレオノーラ・ド・ヴァロワ侯爵令嬢を照らしていた。婚約者であるはずの第二王子、エドワード殿下が冷たい目で私を見下ろしている。「エレオノーラ、貴様のような悪女が、未来の王妃などありえない!」

……また、この場面(シーン)か。

何度目だろう。侯爵家の庭で、エドワード殿下に婚約破棄を告げられ、悪行の数々を暴露され、断罪される——そんな夢を何度も何度も見ている。前世の記憶が蘇ってから、ずっとだ。

私がエレオノーラとして目覚めたのは、五歳の時。最初はただの侯爵令嬢としての生活を謳歌していた。美しいドレス、美味しいお菓子、優しい両親。けれど、ある日、自分がプレイしていた乙女ゲーム『聖女と七つの宝石』の悪役令嬢、エレオノーラ・ド・ヴァロワその人だと気づいたのだ。

ゲームのエレオノーラは、主人公である聖女を虐げ、攻略対象である王子たちを誘惑し、最終的には破滅を迎える。婚約破棄された後、国外追放となり、悲惨な末路を辿るのだ。

だから、私は決意した。破滅エンドなんて絶対に迎えない。聖女とは争わず、王子たちにも深入りせず、ひっそりと生きていく。それが私の目標だった。

それなのに、なぜ今、私はこの断罪の場に立っているのだろうか。エドワード殿下との婚約は、父が決めたこと。私はただ、侯爵令嬢としての義務を果たしてきただけなのに。聖女であるリリー・ホワイトフィールド嬢とは、必要最低限の会話しかしていない。他の攻略対象たちにも、親しげに話しかけたことすらない。

「弁解することもないのか、エレオノーラ!」

エドワード殿下の声が、私の思考を遮った。リリー嬢が、心配そうに殿下の袖を引いている。彼女の瞳には、私への同情の色が滲んでいるようだった。

……違う。これはおかしい。

私が知っているゲームの展開と、何かが違う。リリー嬢はもっと無垢で、純粋で、私を陥れるようなことはしないはずだった。なのに、彼女はエドワード殿下の隣で、まるで私が本当に悪女であるかのように、悲しげな表情を浮かべている。

一体、何が真実なの?

混乱の中、リリー嬢がゆっくりと口を開いた。「エレオノーラ様……わたくし、ずっと苦しんでおりましたの。あなたのいじめに……」

その言葉と同時に、私の視界が歪んだ。喉が渇き、息が詰まる。足元がふらつき、意識が遠のいていく。目の前には、私を断罪するエドワード殿下と、涙ながらに訴えるリリー嬢。そして、その背後には、得体の知れない黒い影が、蠢いていた——。

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