婚約破棄されたので、自由に生きることにしました

Chapter 3 — 闇夜の告白、偽りの涙

会場に突然の暗闇が訪れた。数秒の静寂の後、ざわめきが広がる。イザベラは息を呑み、冷や汗が背筋を伝った。セバスチャン王子の電話での冷たい言葉、そしてこの暗闇。まさか、彼が仕組んだのか?

「お嬢様、大丈夫でございますか?」

背後から、見慣れた声が聞こえた。侍女のクロエだ。イザベラは努めて平静を装い、息を吐き出した。

「ええ、大丈夫よ。ただ、少し驚いただけ」

暗闇の中、誰かの気配が近づいてくるのを感じた。それはセバスチャン王子ではない。もっと…静かで、しかし確かな熱を帯びた気配。アルフォンス・ルクレールだ。

「これは、思わぬ夜会となりましたね」

低い、落ち着いた声が耳元で囁かれた。アルフォンスの手が、そっとイザベラの腕に触れる。その指先は驚くほど熱く、イザベラの肌を焼きそうだ。

「ルクレール様…!」

「先ほどの電話、お辛かったでしょう」

彼はイザベラの顔を覗き込もうとするが、闇がそれを許さない。代わりに、彼の声がイザベラの心に直接響く。

「あの男の言葉は、あなたにふさわしくない」

「…」

イザベラは何も言えなかった。セバスチャン王子への憎しみと、アルフォンスから受ける unexpected な温かさ。どちらも彼女の感情をかき乱した。

「私と共に来てください、イザベラ様。この夜会から、そしてあの男から、あなたを連れ出しましょう」

アルフォンスの声は誘惑のように甘く、そして力強かった。その言葉に、イザベラは一瞬、心揺らいだ。破滅回避のために、この男の力を借りるのも一つの手かもしれない。

その時、遠くで歓声が上がり、再び照明が灯った。眩しい光に目を細めると、そこにはセバスチャン王子が立っていた。彼の表情は怒りと失望で歪んでおり、その視線はイザベラと、彼女に触れるアルフォンスに向けられていた。

「イザベラ…貴様、一体何を…」

セバスチャン王子の声は怒りに震えていた。アルフォンスは、まるで何もなかったかのようにイザベラの腕から手を離したが、その唇の端には、かすかな笑みが浮かんでいるように見えた。

イザベラは、セバスチャン王子の怒りの視線と、アルフォンスの謎めいた微笑みの間で、ただ立ち尽くすしかなかった。

「さあ、お嬢様。王子の御前に参りましょう」

クロエが、いつの間にかイザベラの傍らに戻ってきていた。しかし、その瞳の奥には、先ほどとは違う、冷たい光が宿っているように見えた。

照明が戻り、煌びやかな夜会は再開されたかに見えたが、イザベラの心は嵐の前の静けさだった。セバスチャン王子の怒り、アルフォンスの誘い、そしてクロエの異変。全てが彼女を、予測不能な運命の渦へと引きずり込んでいく。